ここ数年で、少しずつ日本国内でZohoを導入する企業が増えて来た印象です。

私は2016年に当時の職場で初めてZoho CRMに触れ、好き勝手にZohoでCRMやSFAやMAでの実験を繰り返し、その引き出しストックにより、独立してから様々な業種の(主に中小)企業様のZoho導入のお手伝い、特定アプリのカスタマイズ、コンサル等もお受けするようになりました。

Salesforceの下位互換という表現はかなり的確笑だと感じますが、Salesforceよりも圧倒的な低価格で"似たようなコト"を始められることもまた事実です。

このため、年額10万円前後で試しに「見込み顧客管理」、「お問い合わせ・商談管理」、「ステップメール実装」を一つのソフトウェアで運用してみたい、という場合にはなかなかうってつけではあります。

Zohoとkintoneってどっちがいいの?

割とよく頂くご相談の中に「Zohoとkintoneはどっちが良いの?」というものがあります。正確な回答としては「ケースバイケースです」ということになるのですが、このご質問をされるクライアント様の多くは、実際に社内で運用されたいフローイメージが具体化されていないことがほとんどです。

デフォルト機能(プラグインやスクリプトでのカスタマイズを行わない場合)のみでの設計思想でいうと、kintoneは社内での管理業務に向いており、Zohoは社内管理に加えMAも担うことができます。ただしkintoneはカスタマイズを行うことで社外の顧客に対してのメール送信等も可能になります。

この上で、検討すべきポイントは大きく2つあります。

1.メンテナンスのしやすさ

何よりもまず、Zohoとkintoneは似て非なるものであり、設計思想や各社のターゲット利用者層は大きく分かれています。この上で、やろうとすればやれることの領域で被る部分が少なくないのです。しかしそのことを初めにきちんと理解しておかないと、何よりも困ってしまうポイントの一つがメンテナンス工数です。メンテナンスにどれくらい工数を割かれるか、ということは企業では致命的になりかねない大きな問題です。

まずZohoですが、前提としてZohoは社名であると同時にアプリの総称みたいなものです。Zoho CRM、Zoho Campaigns、Zoho Analytics、Zoho Formsといった、数十個ものアプリが初めから用意されており、その中のどれを使いたいかでもちろん料金も変わります。この初めから用意されている、という部分がミソでして、初めから用意されていないアプリをオリジナルで作ったりはできません。ただ、2025年1月現在、50個前後のアプリが用意されているので、ほとんどのケースで、要望に合うアプリが見つかることは多いです。

ただし、Zohoの本社はインドにあって、長年日本以外の海外がメインターゲットであり、ここ数年で日本向けに力を入れ始めたといった具合です。このため、日本人向けに特化されていないUIがまだ散見されます。特に市販アプリの管理画面等をあまり触ったことがないような場合、直感的にアプリを構築することがやや難しいかもしれません。

次にkintoneですが、Zohoとは異なり、初めから、顧客管理用アプリや案件管理用アプリや解析用アプリが用意されている、ということはありません。無料・有料のアプリテンプレを使用することはできますが、基本的には1から希望するアプリを構築することになります。そして謳い文句である「ノーコードでらくらく」の通りにアプリを簡単に構築できる場合も極稀にありますが、特に初めの内はそんなに楽に構築できると期待されない方が良いです。

しかし、kintoneは日本国内のCybozu社の商品であるため、UIは日本人向けに特化されています。特化されているからノンストレス、というわけではありませんが、アプリ初心者の方には操作性は優しいかと思います。さらにWeb上に転がっている日本語ナレッジの量は圧倒的にkintoneに軍配が上がりますZohoは日本語記事がまだまだ少なく、また仕様変更が多いため、記事が本体のアップデートに追いつけていないことが少なくありません。英語でのナレッジは少なくないので、英語での検索・調査が苦でない方であればそれなりに問題に対処しやすくなります。

とはいえ、少し慣れてくると、kintoneはノーコードでポチポチメンテナンスをすることになるのですが、このポチポチにけっこう時間がかかります。ポチポチ作業は時間短縮が難しいのです。プログラマーからすると超非効率な作業と感じてしまうこともあるのですが、これはノーコードの宿命でもあります。

じゃあZohoだって一緒でしょ?となるのですが、Zohoは前述の通り、アプリの箱自体は初めから用意されているので、ポチポチ工数はkintoneより少なく済むことがほとんどです。

初めから用意されているアプリの形(≒デザイン)で要望を満たせそうであるならZoho、できるだけ使い勝手がいいようにアプリを柔軟にカスタマイズしたいならkintone、という風な決め方も悪くはないと思います。しかしkintoneなら完全に自由にカスタマイズできるかというと、もちろん限度はあり、ベースデザインはkintoneの基本フォーマットに依存します

ほぼExcelのように使えると聞いたから、といざkintoneを使い初めてみると、Excelのように利用できる箇所もあれば、利用できない箇所も多いので痛い目に遭うこともあります。

Webサイトのように完全に自由にデザインやUIがカスタマイズされた管理システムを求められている場合は、費用と工数を十分にかけ、独自システムを開発するという選択肢が最も確実です。

2.ランニングコスト

Zohoもkintoneもいくつかのプランが用意されているので、どのプランを選択するかでランニングコストは大きく変わります。

まずkintoneのライトコースはプラグインもJava Scriptも利用できないので、残念ながらこのプランで希望通りのアプリを構築できることはほぼ皆無、と思っていただいてあまり差し支えはありません。なので、kintoneの場合はスタンダードコースで年額237,600円(契約に必要な最低ユーザー数10人分)が最安と考えていただく必要があります。

kintone料金表

Zohoの場合は、パッケージコースと単体のどちらを選択するかの判断からスタートになります。全アプリを利用できるZoho One、CRMと利用頻度の高い11個のアプリを利用できるZoho CRM Plus、そして各アプリの単体契約です。さらに単体の場合はプランも分かれています。例えばZoho CRM単体だと、無料プランもあれば、最上位のアルティメットプランだと年額82,368円です。

Zoho CRM料金表

したがって、どのパッケージ、どのアプリを利用されたいかで料金が変わるので一概に比較することは難しいですのですが、一旦、Zoho One(全従業員利用プラン)をkintoneと同様に10ユーザー分契約したとしましょう。ずばり年額586,080円です。kintoneの倍以上の金額ではありますが、単純に比較することはあまり有意義ではありません。

例えば、Zoho One(一部従業員利用プラン)を1ユーザー分で年額142,560円で契約し、そのアカウントを複数名で使うことも可能です。この場合、全てのログが1アカウントに集約されるので、実際の作成者や更新者情報を自動で記録に残すといったことができなくなる等デメリットも少なくありませんが、とにかくコストを抑えたいのであれば検討しても良いかと思います。

Zoho One料金表

この上で、実際にZohoの導入に関するご要望をコンサルさせていただいている中で、Zoho CRM Plusを1ユーザー分で年額90,288円もしくは2ユーザー分で年額180,576円のパッケージを選択されるお客様が一番多いです。構築されたい内容が、顧客管理、サイト訪問者トラッキング、MA(主にステップメール)、問い合わせ管理、タスク管理、SNS管理、アンケート取得、データ解析、といった範囲内に収まっているのであれば、基本的にはZoho CRM Plusで対応可能であるからです。

Zoho CRM Plus料金表

では、結局Zoho CRM Plusにしておけば無難なのかというと、そうではありません。あくまでご要望が上記のいずれかに当てはまっている場合にZoho CRM Plusが候補上位に挙がって来るということになります。

「UIはできるだけわかりやすい方がいい」「社内のITリテラシーがそこまで高くない」「可能な限り外注はしたくない」「MAは保留」といった条件の場合には、kintoneの方が良いかもしれませんし、新進気鋭のシステムを試してみてもいいかもしれません。
※「@pocket」といったかなり安価に始められるノーコード業務アプリシステムも登場したようです(私は利用したことはありません)。

ただし、ナレッジの量というポイントもあまり無視できないので、日本国内の利用者が多いシステムには、何か問題が起こった際に解決しやすい、という側面もあります。

ということで、結局どちらが良いかは、ケースバイケースです。様々な角度からしっかり調べ、しっかり検討することが大切です。それでも迷われる場合や決め手がないといった場合には、ぜひご相談いただければと思います。